The Artist のこと2012年06月12日

 先日書けなかったThe Artist のことを。
 こういうしゃれた映画、大好きです。ユーモアがあって、観客におもねらず、いろんなところにいろんな仕掛けがあって見たあとにさわやかな余韻を残す。
 ハリウッドが舞台なのですが、アメリカコテコテにならず古き良き時代のアメリカをフランス人が描くことで、いかにもいかにものストーリー展開に異化作用がおこって、さらっとした味わいになるわけです。今のアメリカにはこういう作品は作れないでしょうね。マーケティング主義に支配されているから。アメリカ製だと、この辺でこういう風に話を展開させれば笑ってくれるだろうとか、感動してくれるだろうとか、計算がちょっと見えてしまいそうな気がします。
 でも、主役二人にはフランスの俳優を使いながら(主演のジャン・デュジャルダン Jean Dujardin さん、苗字を和訳すると「庭の」さんですね。これ、映画とはまるで関係ありませんが)、脇役をしっかりアメリカのベテラン俳優たちでしめているところがいい。音声がないんだから、考えようによってはフランス人を多用することもあり得たかもしれません。でもそれではまたつまらなくなります。
 音楽が素晴らしい。台詞がない分、音楽が常に流れていて、それが人物の感情や場面の雰囲気を表現しています。バリエーション豊かだし。
 全編を通して現実への苦い皮肉もなく、絶望や告発もありません。登場人物はすべて善人。そのあたりは「ローマの休日」に通じるところがあります。かといって、昔は良かったというノスタルジーに浸っているわけでもなく、どこまでもフィクションの楽しさを追求していて、エンタテインメントとしての役割を全うしているのですね。

 最後に犬のジャックを演じたアギー Uggy がこの映画の影の主役と言っていいくらいのいい味を出していたので、言い添えておきます。終盤に主役が火事場から助け出されるシーンで、主役を救ったのはこの犬。おまわりさんがこう言います。I say one thing. He owes his life to this dog. 「一つ言っておくとね、彼はこの犬のおかげで助かったんですよ。」
 この台詞は、こう言い直してもいいでしょう。This movie owes its success to this dog. この映画の成功はこの犬のおかげだよ。……それは賞めすぎかな。とにかく、楽しい映画でした。

The Artist 良かった2012年06月04日

 久しぶりに映画館へ足を運んで映画を見ました。"The Artist". アカデミー賞5部門を取った作品です。
 アカデミー賞を取った割には、上映期間が短かったようで、もうほとんどの館では終わっていて、今日は残り少ない館の一つ、シネスイッチ銀座で見ました。それも今週で終わりかなあ。
 映画はすごく良かったです。これはお薦め。見たあとに「ああ、よかったなあ」と暖かな気持になれる作品です。今の時代に逆行するモノクロ・サイレントというのが僕好み(サイレントとは言っても音楽は流れているし、一部にしっかり音が入っています)。でも、へそ曲がりなわけじゃなく、その良さを十分に生かした作品に仕上がっています。
 映像、音楽、演出、脚本、演技、みんな良かった。……どうも、いい紹介になっていませんね。こういう文章はぼくの方針から大きく外れるので、また後ほどじっくり書きます。とりあえずは、皆さんにお勧めだと言うことだけを強調しておきます。


「東京物語」その22012年02月04日

 「東京物語」の作品についてではなく、当時の日本について、ちょっとお話しします。
 この映画は1953年(昭和28年)の作品です。僕が生まれたのは1956年ですから、幼いころの風景が映画の中のあちこちに出てきて、懐かしく思いました。しかし、ではあの頃に戻りたいと思ったかというと、そうでもないというのが正直な気持です。人は昔を美化して記憶する傾向がありますが、当時の映画を見ると、自分の都合のいいように過去をアレンジして記憶していることが改めてわかります。自分にとっていい想い出ではないことも、そうか、そういえばこんなこともあったんだと、 思い出しました。

 たとえば、主人公の老夫婦が熱海の温泉に泊まった時のエピソード。夜、別の宿泊客たちがおおぜい麻雀をしているのです。たばこの煙が部屋中もうもうと立ちこめていて、ジャラジャラと牌をかき混ぜる音が響き渡っています。旅館の外からは芸人グループが歌謡曲を歌っている。そのせいで、夫婦は眠れない一夜を過ごすのです。
 ぼくが子どものころ、父親がしょっちゅう人を家に呼んで麻雀をしていました。2階の自分の部屋から1階にあるトイレや居間に行くにはどうしてもその部屋を通らなければならず、ぼくはそれがいやでした。たばこの煙も牌をかき混ぜる音も。でも、当時は社会全体がそういうことを許容していたわけです。大人の世界はそういうものだと思っていました。
 老夫婦は宿泊客たちの騒音を旅館に訴えるわけでもない。ひたすら我慢するのみ。すべては自分たちの胸の中に収めます。今だったら、当然の権利として旅館側にクレームをつけてもおかしくないような事態です。
 この映画は社会や特定の人間を批判的に描いているわけではありません。それがテーマではないのです。だから、これはあくまでも映画を見て、ぼくが個人的な思い出に結びつけて抱いた感想です。今や麻雀人口はすっかり減ってしまいましたが、ああいう世界に戻りたいとは思わないのです。
 
 かと言って、今がいいとも思っていません。人は何かを得る代償として何かを失うものです。だから過去を振り返ることもなく、ただ時代の流れに身を任せる生き方も良くないけれど、むやみに過去を美化して懐かしがるのも間違っていると思うのです。
 ぼくは年齢を重ねるうちに「歴史は発展する」という考えはある意味幻想なのではないかと思うようになりました。社会も人も「変化」するだけで、必ずしも「発展」しているのではないということです。少なくとも、発展を素朴に信じきるのはやめたほうがいいだろうと思っています。
 要するに私たちの生きるこの世界は、いつの時代もいいことと悪いことが共存していると言うことです。そして私たちはそれに巻き込まれながら、あるいは利用しながら日々を生きているわけですね。だとすれば、私たちはちょっと落胆しながら、でもちょっと希望を持って、閉じこもらずに着実に歩き続けていけばいいのではないか、それができるんじゃないか、と思うのです。
 「東京物語」は、日本の社会がどれだけ大きく変わったか、ということと同時に、日本人のどういう部分が(精神的にも物理的にも)変わっていないかを示してくれる、すぐれた作品なのです。

小津安二郎「東京物語」2012年01月29日

 ぼくはこの一年間、教団出版局の「こころの友」という紙面で「アジア映画を楽しむ」という連載記事を書いていました。アジア映画のDVDを毎月1本、キリスト教の視点から眺めて紹介するというものです。この3月で終了し、4月からは別の連載を担当させていただくことになりました。そのことは 稿を改めてお話しします。

 さて、アジア映画紹介の仕事をする中で、気がついたことがありました。
 もともとぼくは、どの国と言うことは関係なく、家族ものに弱いということを数年前から感じるようになっていました。さらにもう一つ。演出過剰なものよりも淡々と物語を進めていく作品の方に惹かれる傾向が、近年強くなってきていました。年齢のせいもあるのでしょう。
 そして、邦画、洋画、アジア映画を問わず、ぼくが好きになる作品の共通項に、あるとき気づきました。それはそれらの監督が小津安二郎の影響を受けているということです。
 韓国の「八月のクリスマス」(ハン・ソッキュ主演)は素晴らしい映画ですが、この映画のホ・ジノ監督も小津のファンであることを公言しています。
 小津安二郎の名前はもちろん知っていましたが、僕自身はるか20年以上前に「東京物語」を見ただけで、まったくといっていいほど知りません(もう1本、NHK-BSで何か見ましたが、途中で見るのをやめた)。
 その「東京物語」を見たのは、フランスのリヨンという街ででした。当時ぼくは22歳。洋画の方がはるかに好きだった当時の僕としては、つまらないわけでもなかったけれど、逆に、ものすごく面白いと感じる映画でもありませんでした。
 邦画だったらやっぱり黒澤明の方が好きだったのです。見ていて飽きないワクワクする映画。それに比べて、小津の映画はあまりに静かすぎて、よくわからない。その良さが分かるようになるには年齢を重ねる必要がありました。そんな小津の映画が、去年からにわかに気になり始めて、もう一度見たくなったのです。もしかしてぼくは小津安二郎の映画が好きなのかもしれない。それを確かめようと。

 で、きのう見ました。DVDで(380円で買えます)。良かったですよ。やはりこれは名作です。
 22歳で見るのと、55歳で見るのとでは、見えてくるものがこんなに違うのかと思いました。あのころの僕は、この映画を単に親子の葛藤とか世代間のギャップを描いたもの、という程度にしか捉えていませんでしたが、そうではない。老いることや家族というものについて透徹した目で見て描いた、奥の深い作品だったのです。演出も演技もすべて抑制されていて、わざとらしさが一つもない。話の展開にこれといった起伏はまったくなくて、そこに出てくる人たちは、あなたや私であり、私たちのまわりにいるリアルな人間たちです。
 今の時代、こういうのを作っても興行成績の点ではまったくの失敗に終わるでしょうね。だから今は、こけないために「ALWAYS 三丁目の夕日」みたいな、素人向けの手垢のついたストーリーや演技や演出の映画を作らなくてはいけなくなるのでしょう。
 この作品に匹敵する質を持つ最近の邦画としてあげられるのは、是枝裕和監督の「歩いても歩いても」だと僕は思っています。「おくりびと」は好きな映画ですが、泣かせの演出や海外で受けようとする作為がちょっと見え隠れするのです。

 この話題は、また 次回にまた取り上げたいと思います。

映画「ユナイテッド93」2011年02月14日

 以前から見たいと思っていた映画「ユナイテッド93」をDVDで見ました。あの2001年9.11テロを扱った映画です。あれから10年経つのですね。
 監督は「ボーン・スプレマシー」のポール・グリーングラス。よく作られた作品だと思います。全体としてはハンドカメラを多用したドキュメンタリータッチで編集されていますが、空虚なエンタテインメントにならないように気を配っているし、かといってお涙ちょうだいの感動ものにもしていません。監督や制作者の誠実な姿勢を感じました。
 事実だけに、見ていてすごく辛い映画でした。ボーナス映像で遺族数家族のインタビューがありましたが、これを見るとよけい辛くなります。
 実際にあの機内でどんなことがおこっていたのか、詳細は分からないわけで、管制塔と飛行機の通信、あるいは乗客と家族の残された電話の交信記録などをもとに大胆に想像しながら作っているのだと思います。しかし、恐らくこうだったのはないかと思わせるリアリティーがあり、いっしょに飛行機に乗り合わせているような臨場感がありました。ハリウッドの大スターが出ていないのも良かった。

 ユナイテッド93だけがテロリストの目的を防ぐことができたのはなぜか。
 その理由の一つは、この飛行機が他の3機のハイジャックされた飛行機に比べて離陸が遅れたことだったというのを、今回、映画を見て知りました。乗客が家族らとの電話を通じて、他の事件を知ることができたのです。そしてテロリストの企てを阻止しようとしたのです。

 ユナイテッド93をハイジャックしたテロリストたちは、他の飛行機の「任務」が成功したことを知り、神に感謝するシーンがあります。また、終盤にさしかかる場面で、テロリストたちも乗客の中の数人もそれぞれに神に祈ります。テロリストたちはアラビア語で祈り、乗客は「主の祈り」を祈ります。こういうあたり、ぼくは見ていて、複雑な思いを抱きます。
 ぼくはキリスト教を擁護するような傲慢さは持ちたくないので(それは誤った信仰熱心だと思うから)、こういうことについて、間に合わせの、わかったような弁解をこしらえたくないのです。
 こんなの、おかしいだろって、素直に言いたいですね。一神教なのに、それぞれの正義を主張して殺戮を行う……(手塚治虫『アドルフに告ぐ』のテーマだなあ)。わからないことはわからないままにして、問い続けたいと思います。
 9.11 テロのあとにブッシュがやったことを思うと、よけいいやになる。あんなのキリスト教でも何でもない。ブッシュこそ世界最大のテロリストだ、という指摘はうなずけます。アメリカで犠牲になった人たちは、こういう映画を通じて存在を覚えてもらえるかもしれないけれど、あのあとイラク戦争で犠牲になった多くのイラク市民たちは、誰の記憶にもとまらず命を散らしたのですよ。

 そのほかにも、人の勇気とか愛とか、いろんなことを考えさせる、重いけれど価値ある映画でした。凡百のパニック映画がかすむ傑作には違いありません。

「シックス・センス」買いました2011年01月22日

 あれから親子会議をして、「シックス・センス」のDVDを買うことにしました。昨日の午後、アマゾンで注文したら、もう届いちゃった。そんなに急いでないのに。でも、とにかくありがたいことです。
 DVDには特典映像という、メイキングその他の映像がありますよね。あれが面白い。そしてそれを見ると、さらにこの作品の良さが分かってきました。ほんとうによく考えて作られているのです。脚本だけでなく、色やら映像など(特撮は使っていないのですね。えらい!)随所に仕掛けが施されていて、それぞれに意味があるわけです。

 アマゾンでDVDが3枚3000円というバーゲンコーナーがあるのですが、このDVD、その中には入っていませんでした。でも1800円だから、じゅうぶん安い。
 この「どれでも3枚3000円」というのは、一見良さそうなのだけれど、意外に自分の欲しいものがなかったりします。たとえば、「ウエストサイドストーリー」「サウンド・オブ・ミュージック」などは入っていません。まあ、これらもしっかり安いので個別に買っていいんだけどね。
 「ベンハー」「ショーシャンクの空に」「スタンド・バイ・ミー」「フォレスト・ガンプ」「ニューシネマ・パラダイス」は今もちゃんと安く手に入るので、これらの作品はそのうち買う予定のリストに入っています(と言いながら、何年もほったらかしにするのだけど)。

 それから、上に上げた以外の僕のお気に入りの映画を探してるのですが、いつ検索しても、バーゲンどころか、新品が今は在庫切れ状態になっています。がっかり。そんなもんだなあ。ほんとに欲しいものって、なぜか売っていないのですよね。
 ぼくが欲しいDVDは、「冒険者たち」「SMOKE」「Leap of Faith」「クライングゲーム」。どれもいいですよ〜。もちろん他にもいい映画はまだまだたくさんあります。解説はまた今度。

シックス・センス2011年01月16日

 ぼくは本にしろマンガにしろ映画にしろ、このブログで取り上げるときに、新刊か古本か、最新作か旧作かなんてまるで考えずに、自分で気に入ったときに気に入ったものを選んで感想を書いてます。気ままなやり方です。ジャーナリズム感覚が根本的に欠落した人間なのですね。

 というわけで、今夜見たDVD「シックス・センス」のことをちょっと書きたいと思います。見た人もたくさんいるだろうから、何で今ごろ?と言われそう。11年前の映画ですからね。でも、とにかく感想を書きたくなるような傑作だったのです。子どもたちもこれが好きで、娘はこの作品を見るのはもう4度目だとか。
 いい映画だということは公開当時から聞いていたけれど、今回はじめて最初から最後までじっくり鑑賞して、いやー、面白い。感動しました。えっ、これがアカデミー賞、無冠? この年(1999)の作品賞は「アメリカン・ビューティー」。うーん、仕方ないか。
 ちなみに、「アメリカン・ビューティー」も面白かったのですが、こちらはひと癖ある内容で、感動という種類ではありません。ぼくはこの作品で主役をやったケビン・スペイシーのファンです。この年には「グリーンマイル」も候補に挙がっていて(こちらは主役がトム・ハンクス)、なかなかの激戦だったのですね。

 話が脱線しました。でもわざとです。
 さて、シックス・センス。Sixth Sense 第六感。これは愛の物語です。親子の、そして夫婦の。ミステリー、ホラー仕立てになっているけれど、紛れもなく愛の物語です。ネタバレになるのでストーリーは話しませんが(でも、みなさんご存じでしょう)、結末が分かってもやっぱりもう一度見たくなりますね。
 とういか、むしろ2度目以降は見方が変わります。それくらいよくできたお話です。
 ブルース・ウィリスはアクション俳優だけれど、この映画にはアクションは一切出てきません。人間の内面を表現する演技で勝負しています。俳優だったらこういうのをやってみたいと思ったんでしょうね。
 舌を巻く演技を見せるのはもちろん、あの子役、ハーレイ・ジョエル・オスメント。主役はブルース・ウィリスが別の役者に交替する可能性は想像できるけれど、子役に関しては、この子じゃなかったら、この映画は成り立たなかったんじゃないかと思えますね。
 スピルバーグの「A.I.」にも出てきましたけど、ぼくはあの作品があまり好きじゃなかったので、ハーレイ君の演技としては、やっぱりこっちの方を推します。

 実は、昨日、仕事で必要があってDVD「猟奇的な彼女」を見たのです。ちょっと辛かった。先日は「私の頭の中の消しゴム」も見たのですが、これも辛かった。どういう意味で辛かったか、コメントは差し控えさせていただきます。
 で、そのお口直しにこのDVDでも見たら?と、娘に薦められて見たのが、この「シックス・センス」だったのです。
 少し気持ちが落ち着きました。ああ、よかった。