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前回、まわりの人に漫画の話題を持ちかけると予想以上に多くの人が反応するということをお話ししました。みなさん漫画が好きなんだなと気づかされるわけです。
考えてみれば当然ですね。戦後世代は漫画で育ってきたのです。60代も十分に範囲内です。漫画は卒業するものではなくなりました。読者とともに成長し、変貌を遂げ、漫画の概念そのものが変わってきたというのが、むしろ真実です。
漫画評論、漫画学を精力的に進めている夏目房之介さんも現在60歳ですが、子どものころから漫画にどっぷりつかって育ってきた人のようです。その夏目さんが『漱石の孫』(新潮文庫)の中で、漱石の文学との関連から、文化的遠近法について興味深い指摘をしています。
↓以下、引用。
たしかに、海外のごく一部で漱石文学の翻訳も出てはいる。が、現在なら村上春樹やよしもとばななのほうがはるかに有名なはずだ。
もっと有名なのは、若い人を中心に受容される日本のアニメ、マンガ作品であり、この進出ぶりは、すごい。ここ百数十年の日本の欧米文化入超状態にたいし、このことは大きな意味をもっている。
が、日本人にとってアニメ、マンガが輸出されることは、さして意味のあることに思えず、漱石を知らないことのほうがショックだったりするのである。
僕にいわせれば、その感覚のほうがおかしいので、漱石より『ドラゴンボール』や『美少女戦士セーラームーン』『ポケモン』が知られていることの意味をこそ、今の日本は考えなければならないはずだ。それなくして「国際化」も「グローバライゼーション」もヘッタクレもなかろうとさえ思う(もっとも、さして実情を知らずにアニメやマンガの海外進出を誇らしげに喧伝する報道もどうかと思うが)。
↑引用、ここまで。
漱石の孫がこういう発言をすると言うのは刮目すべきことで、耳を傾ける価値がおおいにありますね。ぼくは漱石の文学も大好きですが、マンガも結局は故郷の一つなので、夏目房之介さんのような考え方の人がいてくれるというのはうれしいことです。
歌舞伎や浮世絵と言った、世界に影響を与え、世界に誇れる日本文化は、考えてみればすべてもともとはサブカルチャーだったのですね。日本人は、最初から王道である分野よりも、そういうサブカルチャーにこそユニークな発想や技術を発揮するのかもしれません。夏目漱石は賢くて生真面目な人でしたが、落語が大変好きでした。落語も大衆芸能、サブカルチャーです。そういうものへの愛が、漱石の目をリベラルなものにしていたように思います。
専門バカで、頭が固くて、妙なプライドに凝り固まった「お偉い」学者に限って、そういうことに気づかずにいる傾向があるようです。
最後に、もう一度、房之介さんの文章を引用して、この項を閉じましょう。
こうした逆転現象にもかかわらず、日本人はあいかわらず欧米=文化輸入先という枠組みでしかものを考えない。だから自国の文化的ブランドである漱石が欧米で無名であることに傷つくのである。(中略)いずれにせよ、こうした奇妙な文化的遠近法を問いなおすには、漱石の文学よりマンガやアニメの研究のほうが、現在でははるかに有効ではないかと僕は思う。
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