小津安二郎「東京物語」2012年01月29日

 ぼくはこの一年間、教団出版局の「こころの友」という紙面で「アジア映画を楽しむ」という連載記事を書いていました。アジア映画のDVDを毎月1本、キリスト教の視点から眺めて紹介するというものです。この3月で終了し、4月からは別の連載を担当させていただくことになりました。そのことは 稿を改めてお話しします。

 さて、アジア映画紹介の仕事をする中で、気がついたことがありました。
 もともとぼくは、どの国と言うことは関係なく、家族ものに弱いということを数年前から感じるようになっていました。さらにもう一つ。演出過剰なものよりも淡々と物語を進めていく作品の方に惹かれる傾向が、近年強くなってきていました。年齢のせいもあるのでしょう。
 そして、邦画、洋画、アジア映画を問わず、ぼくが好きになる作品の共通項に、あるとき気づきました。それはそれらの監督が小津安二郎の影響を受けているということです。
 韓国の「八月のクリスマス」(ハン・ソッキュ主演)は素晴らしい映画ですが、この映画のホ・ジノ監督も小津のファンであることを公言しています。
 小津安二郎の名前はもちろん知っていましたが、僕自身はるか20年以上前に「東京物語」を見ただけで、まったくといっていいほど知りません(もう1本、NHK-BSで何か見ましたが、途中で見るのをやめた)。
 その「東京物語」を見たのは、フランスのリヨンという街ででした。当時ぼくは22歳。洋画の方がはるかに好きだった当時の僕としては、つまらないわけでもなかったけれど、逆に、ものすごく面白いと感じる映画でもありませんでした。
 邦画だったらやっぱり黒澤明の方が好きだったのです。見ていて飽きないワクワクする映画。それに比べて、小津の映画はあまりに静かすぎて、よくわからない。その良さが分かるようになるには年齢を重ねる必要がありました。そんな小津の映画が、去年からにわかに気になり始めて、もう一度見たくなったのです。もしかしてぼくは小津安二郎の映画が好きなのかもしれない。それを確かめようと。

 で、きのう見ました。DVDで(380円で買えます)。良かったですよ。やはりこれは名作です。
 22歳で見るのと、55歳で見るのとでは、見えてくるものがこんなに違うのかと思いました。あのころの僕は、この映画を単に親子の葛藤とか世代間のギャップを描いたもの、という程度にしか捉えていませんでしたが、そうではない。老いることや家族というものについて透徹した目で見て描いた、奥の深い作品だったのです。演出も演技もすべて抑制されていて、わざとらしさが一つもない。話の展開にこれといった起伏はまったくなくて、そこに出てくる人たちは、あなたや私であり、私たちのまわりにいるリアルな人間たちです。
 今の時代、こういうのを作っても興行成績の点ではまったくの失敗に終わるでしょうね。だから今は、こけないために「ALWAYS 三丁目の夕日」みたいな、素人向けの手垢のついたストーリーや演技や演出の映画を作らなくてはいけなくなるのでしょう。
 この作品に匹敵する質を持つ最近の邦画としてあげられるのは、是枝裕和監督の「歩いても歩いても」だと僕は思っています。「おくりびと」は好きな映画ですが、泣かせの演出や海外で受けようとする作為がちょっと見え隠れするのです。

 この話題は、また 次回にまた取り上げたいと思います。

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